旅立ち(保護26日目)

 

 8月25日

  

今度こそ最後の日になるだろう。天気もいい。
朝はあまり食べなかったが、起きて2時間ほどするとよく食べるようになった。
出発時刻は4時の予定だったので、3時半くらいまでつきっきりで食べさせた。
ミルワーム30匹くらい、すり餌も5〜6口は食べた。
移動用の箱につばめを入れると少し暴れていたが、じきにおとなしくなった。箱の横に覗き穴があるので、移動中は刺激を与えないように箱を袋に入れた。

4時、母と家を出た。前回乗り物酔いしたようだったので、今度は慎重に、出来るだけ振動を与えないよう箱を胸に抱えて電車に乗った。

鵜殿の堤防に着いたのは5時半頃。まだ明るく、つばめの姿は見えない。つばめが来るまで待つことにし、箱を袋から出すと、覗き穴から外を見ていた。
始めはびっくりしていたようす。前回同様、餌は持ってきていたが、与えようとしても興奮しているのかまったく見向きもしない。ただ、くちばしを半開きにしていたので水を穴からスプーンで与えるとたくさん飲んだ。
そのうち覗き穴から顔をつき出し、さかんに鳴いて暴れだした。外に出たいのだろうが、まだ一羽も飛んでこないのでもう少し待つ。もう穴から顔と肩を出し、飛び出しそうな勢いだ。
6時45分頃、日が落ちて辺りが薄暗くなると、何羽かのつばめが低空を飛んで堤防の土手を超え、葦原の方へ飛んでいった。かなり上空にもチィチィという声とともに黒い影が舞っている。

いよいよだと思い、箱のふたを取った。さすがに暴れ疲れたのか、じっと座っている。
手に包み、最後のお別れをした。「元気で頑張って生きてね・・・!」そして、手をひらいた・・・

飛ばない!なんでやっ!? 

きょとんとして辺りを見回している。初めて触れる360度視界のきく大きな風景に驚き、怯えたように腕を上り始めた。「行きなさいっ」と手を振っても飛ばない。
あんなに箱から出たがったのに、いざとなると完全にびびっている。野生モードから人懐こいペットちゃんモードに入ってしまった。こうならないようにベランダから外を見せたり散歩に連れて行ったりしたのに!やはり洗濯ネット越しに家の近所を周るくらいでは足りなかったか・・・

しかし、いつまでも飛び立つのを待ってはいられない。完全に暗くなってしまえば上空のつばめ達もねぐらに入ってしまうし、この子も目が利かなくなってしまう。
自分の意思で飛んで行って欲しかったのだが、この際仕方ない。少し乱暴だが手でつかんで葦原の方向に放り上げてみた。すると、1メートルくらい飛んでUターンし、肩にとまってしまった。3度繰り返したが、わたし達がそこにいる限り飛んでいく気配は無い。
体にまとわり付き、肩に乗っては「もうお家に帰ろうよ」とでも言うように甘えた声でジュイジュイ鳴く。もうこのときは決心が揺らぎました・・・でも!!
この子は日本では暮らせない。なんとか群れに混じって南へ渡らなければ死んでしまうのだから・・・

こうなったら最後の手段!と、つばめを放すと同時に母と二人走って逃げた。後ろを振り返ると、なんと鳴きながら飛んで追ってくる!後ろから来る母の頭の上を飛んでいたかと思うと、突然横に旋回した!

  

  

見上げると、さっきまでかなり上空を飛んでいた7〜8羽のつばめの群れが、電線の少し上くらいの高さまで降りて来ていて、うちのつばめはその中に吸い込まれるように入って行き、くるくると混じりあい、あっという間にどれがうちの子か分からなくなった。

仲間に迎えてもらったのだ!!

その群れはまた別の群れと混じりあい、夜空にかすんでいった。
なんて運の強い子だろう、と思った。
仲間ができれば、ねぐらにもついていけるし、明日からもまたどこかの群れに混ざって生きていけるだろう。
もうこれから先はわたしにはどうにもしてやれない野生の世界なんだと思うと悲しかった。
でも最後がこんな嬉しい結末になって少し安心できた。
ただ元気で生きて、と心から祈った。
辺りはすっかり暗くなっていた。  

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